2016年5月 6日

 4月のブログーパナマ文書について

            4月のブログーパナマ文書について

今月はパナマ文書について取り上げます。

1. パナマ文書とは

租税回避地での法人設立を請け負う中米パナマの法律事務所モサックヘンセカ(世界第4位)からカリブ海などのタックスヘイブン(租税回避地)に関する大量の秘密ファイル(パナマ文書)が流出し波紋が広がりました。(租税回避地とは、ケイマン諸島や英国領バージン諸島のような税率の低い地域に実体のないペーパーカンパニーを作り、そこに資金をプールすることで自国での課税を逃れようとするものです)。2008年のリーマンショックや09年のユーロ危機によって租税回避への批判が高まり世界的にタックスヘイブンへの規制を強化する流れになっています。この事件の発端は、1年前以上前、南ドイツ新聞への匿名の人物による情報提供で、同社は、1社では手に負えないと判断、76カ国107の報道機関と提携して370人以上のジャーナリストを擁する国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)と共同して情報の解析作業を進めました。

同紙が数ヶ月間、暗号化されたチャットでやり取りし、最終的に膨大な内部文書、電子メールや契約書、パスポートの写しなど流出データは分量にして2.6テトラバイト、ファイル数で約1150万件分に及び77年から昨年12月末まで40年近くにわたる情報が含まれており、有名政治家や経済人有名スポーツ選手など世界トップクラスの富豪の個人情報や取引状況が詳細に記録されています。これらを4月3日に公表しました。

ロシアのプーチン大統領に近い関係者、中国の習近平国家主席の親族、英国のキャメロン首相の亡父の他、サッカー界のスーパースターリオネル・メッシや俳優のジャッキー・チェンや映画監督のスタンリーキューブリック等がタックヘイブンに会社を設立して資産を移転していた疑いが生じました。

2.パナマ文書の影響

これを受けて、アイスランドでは、妻と共にタックスヘイブンの英領バージン諸島にある会社を有していたことが発覚したグンロイグソン首相を非難する数千人規模のデモが起こり辞任に追い込まれました。キャメロン英首相は亡父が租税回避地に投資ファンドを設立していたことに加えて、自身もそのファンドから利益を得ていたことが判明し、野党から辞任を求められています。厳しい世論の声は、6月に迫ったEU離脱の是非をめぐる国民投票に影響を及ぼしかねません。また、パナマやフランスなどの当局が捜査を開始し,オバマ米大統領は「世界的な徴税逃れが問題であることは疑いない」と発言しています。

3.パナマ文書の何が問題か

国外の租税回避地に資産を移して金融取引を行っていても、それ自体は違法行為でない場合が多い。

モサック・フォンセカは、租税回避地での法人設立は完全に合法的な活動であり不正行為で有罪となったことは過去に1度もないと反論しています。

 では、何が問題なのでしょうか。一つは、ペーパーカンパニーがマネーロンダリング〈資金洗浄〉

や不正蓄財の温床になりやすい点にあります。また、それ以上に巨額の資産を国外で秘密裏に運用することで本来自国に納めるべき税金を支払わないことが問題視されます。特に国民に納税を呼びかけ、不正を撲滅すべき立場にある政治家の場合、自身が納税を意図的に回避しているとすれば途上国や独裁国家ならともかく、道義的責任を問われることになり、民主主義国家では世論の反発は強いものとなります。さらに貧富の差が拡大している中、「富める1%」への反発はパナマ文書スキャンダルへ火に油を注ぐ結果となっています。今回の暴露によって納税回避地への移転がただでさえ大きい資産格差をさらに拡大する装置として機能していることが明確化したからです。

著名人の場合、たとえ後ろめたいことがなくても金融関係者に取引を知られたくないという心理が有り、法人名義を使うことがほとんどで、今回、ICIJなどが調べて各国の首脳の関係者レベルまでの関与が明らかになりましたが、複数の法人を噛ませるなど複雑なスキームを使っていれば報道レベルでの調査は限界があり、今後各国の当局による捜査によってさらに別の首脳の資金移動が明らかになる可能性があります。

4.パナマ文書への対策

 欧州では、アメリカ企業の租税逃れを封じ込める作業が強化されてきました。規制強化の流れは、アメリカも同じで、米製薬会社のファイザーはアイルランド企業を買収してアイルランドに本社機能を移転させる計画を進めていましたが、米政府が課税事強化の規制をしたことを受けて白紙撤回しました。

欧州委員会はG20の直前4月12日に新たな規制提案を発表し、EU内で事業を展開し、全世界での売上高合計が7億5千万ユーロ(約922億円)を超える多国籍企業に対し、EU域内それぞれの国ごとの納税額や利益を公表するよう義務付けました。英、独、仏、伊、スペインも4月14日対策案をG20に提案。富裕層らが実体のないペーパーカンパニーを使って租税回避地に資産を移す行為を防ぐため、財団法人や信託を含むあらゆる法人の実質的な所有者の登録を義務付ける制度を各国に求めました。

4月15日米国のワシントンで開かれた主要20カ国地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、これらの動きを取り入れた形となり、また、租税回避地への監視強化策を討議し、対策の枠組みに参加しない国、地域を明示することを決めました。

また、銀行口座情報の国際的な自動交換制度に参加を見送っていたパナマも参加を表明しました。

なお、ICIJは5月10日午前3時にパナマ文書に含まれる21万余の法人の名前、それらの役員、株主の名前をウェブサイトに公表する方針だそうです。

 

最後に、気になる点について列挙してみました。

1、何故この文書がこの時期に出てきたのか、情報提供者の正体とその意図、その情報の信憑性について

2、この文書の公表と個人のプライバシーとの関係はどうなのかということです。不法行為をする金持ちに対して、プライバシーを問題にしなくていいという前提になっているのでしょうか

3、今回の公表は、世界4位の法律事務所で、氷山の一角に過ぎず、他の1~3位の上位会社等ではさらに高額の取引、有名人が関わっているのではないかかということです。

 

世界経済の規模は、7兆円程度でタックスヘイブンに秘匿されている金額は2兆~3兆円程度と言われています。この膨大な金額が資本市場に流れ込み実物経済の10~20倍とも言われる巨額のマネーを動かし、これがリーマンショックのような破綻を引き起こし、実物経済を破滅させてきましたが、今回の対策でこれらの懸念は払拭できるのでしょうか。今後のさらなる動向に注目していきたいと思います。

 

森島 中小企業 ISO支援オフィス


コンサルタント 森島高明


〒194-0045
東京都町田市南成瀬1-2-1 成瀬駅前ハイツ2-1005号
TEL: 042-723-1478    FAX: 042-723-1478