2019年8月 5日
2019年７月のブログ ― ボリス・ジョンソン氏の首相就任とブレグジットの行方
2019年７月のブログ ― ボリス・ジョンソン氏の首相就任とブレグジットの行方
今月は、問題の人ボリス・ジョンソンが英国の保守党党首選挙に当選し、英国の首相に任命されたので英国のEU離脱（ブレグジット）の行方はどうなるかについて述べてみたいと思います。
１ボリス・ジョンソンの特徴
ボリス・ジョンソは楽天的で大雑把、変わり身が早く、事実誤認や偽情報に近い内容を無責任にかたるという評判ですが、才はあるので信用がおけなくても人を惹きつけるようです。
例えば、今回の保守党首選の終盤、英国製のにしんの燻製を手に持ち「EUの無意味な食品安全規制のせいで、にしん産業が損をしている」と演説し、喝采を浴びました。しかし、実際規制をもうけているいるのは英国政府だったので、事実誤認や偽情報に近い内容を無責任に語るところがあるようです。このような面での批判は保守党内からも指摘されています。
また、その時々で前言を翻し、くるくると立場を変えてきました。ＥＵ離脱問題に関しては、ロンドン市長時代に、ＥＵ擁護派で英国経済にとって単一市場の重要性を訴え「移民は英国に貢献する」と主張していました。しかし、２０１６年の国民投票では、突然離脱派の先頭に立ち、ＥＵの弊害を訴えました。これは「勝っても負けても離脱派に世論にアピールできると計算したから」と言われています。さらに、ヒトラーを引き合いに出したりしてEUを批判して反感を買いました。EU側は氏への警戒感で一致しています。
英紙デーリー・テレグラフのブリュッセル特派員時代（1989～94年）に書いたEU批判記事は嘘や不正確な内容が多く、損害を被った人達はまだそれを覚えています。EU本部があるブリュッセルの人々にとってボリス・ジョンソンの印象は最初から悪いものでした。
ジョンソンの最大の関心事は権力で、実は筋金入りの強行離脱派ではない。有能な政治家に見せるために強硬派として振舞っているに過ぎない。国際的な展望を持っていて孤立主義者ではないという見方もあります。
２．首相に就任後の動向
首相就任後の組閣で閣僚をブレグジット強硬派で固め、残留派及び融和派を一掃しました。
首相に就任後、EUからの離脱について 「１０月３１日に出る。『もし』も『でも』もない」と宣言しました。「離脱すれば団結できる」という「ボリス」流の理屈で合意意なき離脱も辞さずの構えでEU側の譲歩を引き出す戦術のようですが、EU側は一貫して再交渉を否定しています。「合意なき離脱」がもたらす英国の経済・社会的混乱、国際経済への悪影響は甚大とみられています。
３．今後の動向
英議会では与野党を通じ、「合意なき離脱」への拒否反応が強く、交渉が行き詰まれば，野党の労働党が不信任案を提出すると見られます。現在、下院の与野党勢力は数議席の差で拮抗しており、与党からの造反で不信任案が可決されれば、内閣総辞職か総選挙を行うしかありません。今の状況であれば、総選挙になれば与党が敗北する懸念も十分にあります。
ジョンソン首相も合意なき離脱を望んでいるのではなく、交渉のカードにしたいだけで、離脱協定案を見直した上で合意するのがベストと考えているようです。しかし、保守党の抱える問題は深刻です。下院で過半数を大きく超える議席がなく、EU離脱を巡って党内は収集困難な分裂状態にあり、ジョンソン首相が態度を軟化すれば強硬派の支持を失います。
ジョンソン首相はEUから譲歩を得た上で下院の同意を取り付けようとするかもしれません。ジョンソン首相は柔軟に立場を変えるため、離脱日の延期もあり得るのでしょうか。鍵は、EU側にあり、特に離脱交渉のによる延期に強硬派の仏のマクロン大統領の動向次第となるかもしれません。
最後に
ブレグジットの発端は、自国を過大評価する英国が、EUの風下に立ちたくないという思惑に端を発しています。しかし、離脱が実現すれば国際的な地位はさらに低下すると言われています。しかし、保守党の支持率は２５％しかなく、ジョンソン首相は、職を追われ最短の内閣となる可能性もあります。ジョンソン首相は第２次世界大戦における救国の英雄チャーチル首相を尊敬していて、国難に際して救国を掲げようとしていますが、ぜひ実現を望みたいものです。１０月３１日が離脱交渉の最終期限です。ジョンソン首相の手腕で英国民は喜ぶことになるか、経済面の不幸に陥るのか目が離せません。