2016年8月11日

7月のブログー英国のEUからの離脱(2)

 

7月のブログー英国のEUからの離脱(2

今月も英国のEUからの離脱(ブレグジット)を取り上げます。

1.その後の経緯

ブレグジットというショックから1ヶ月が経ち、英国のEUからの離脱により、市場では予想外の衝撃を受け、1ヶ月間にポンドは対ドルが12%の大幅下落を記録し、ドイツ10年国債の利回り(長期金利)もマイナスが常態化しました。今後、反グローバリズムと国家の分断が欧州各国を襲うことが予想されます。問題発生の張本人のキャメロン首相は辞職することだけで逃げ出し、問題解決の責任を後者に託しました。それを受けて選出されたのが女性のラリーザ・メイ前内相が首相に選ばれました。サッチャー首相にならって鉄の女性として山積する問題を解決してくれるのかその手腕に期待したいものです。

2.問題は新自由主義的政策にあった。

英国経済はリーマンショック(08年)から着実に回復しました。しかし、企業業績が好調なのに対して、賃上げは上昇していません。ロンドンの住宅価格は現在、世界の投資マネーの流入でリーマンショック前より2割近く高い水準に上昇しています。ロンドンに比べて地方の景況は低迷して、さまざまな歪みを生み出しています。こうした歪みを是正するために国の財政があるはずですが、「小さな政府」を掲げる保守党政権は財政再建を急ぎ財政支出を削減しました。その結果、日本に見られるのと同じく、マクロ経済は良好な一方、格差などの社会問題を増大させました。英国は通貨ユーロに加盟せず、国境検査なしで人が移動できるシェンゲン協定にも加盟していませんが、東欧からの移民に制限が甘かったことで、福祉を受給する移民に対し公共サービスの負担増大に不満が噴出、英国民は諸悪の根源をEU に求めてしまったのです。問題の本質は、EUとの対外関係というよりは新自由主義的な経済運営により生じた国内問題であったのです。今後、EUとの離脱交渉が順調にいったとしても国内問題の根本的解決は難しそうです。今後、投資抑制となれば不況が深刻化し格差は拡大します。

 

3.今後の展望 ー 反グローバリズムの進展と国家の分断

EUはドイツ,フランス、イギリスによる3頭政治が行われてきましたが、イギリスのEUからの離脱でそのバランスは大きく崩れます。仏は、景気対策、労働問題、テロ対策で手一杯のため、EUは今後、ますますドイツの役割が大きくな、EUはドイツ的な組織になりますが、それは誰にとっても望ましいものではありません。

メルケルがこの10年間に行ってきたことは、イギリスをはじめEUの市民にEUへの不満を大きくし、ユーロ圏では金融引き締め施策が取られ、南欧諸国には厳しい緊縮施策が突きつけられました。財政危機に陥った国の救済策は、ドイツとフランス銀行に恩恵をもたらすような仕組みになっていて救済されたはずの国では、付帯条件のせいで成長も雇用も伸びず賃金上昇も起きていません。ドイツの貿易黒字が拡大する一方で、それ以外の国は、貿易赤字が増大し、EU経済は、ドイツがドイツを利するために動かしている印象をEU市民に与えています。EUには、かつて拡大や統合を推進したような強力な、新しいビジョンを必要としています。

ブレグジットの僅か1ヶ月も経たない内に欧州は危機に突入しています。各国の統治機構が急速に崩壊しつつあるようです。トルコ、ギリシャ、キプロスの金融危機に加えてポーランド、ハンガリーでは政情不安に見舞われており、仏のニースではテロ、トルコではクーでアターの未遂が起きていますが、これらは欧州の危機機の一部です。難民問題は解決の目処が立たず、悪化する一方であり、EU残留派が多かったスコットランドでは、英国のEU離脱が決まると独立を検討し始めています。

欧州では、今後5~10年の間に政治と社会情勢は悪化の一途を辿り、さらに権力の分散が起こると予想されています。反グローバリズムや保護貿易、権力の分散化、ナショナリズムという動きが世界的に広がっており、ブレグジットはこれを先取りしたものであり、その動きは各国の向かう方向付を示すため、その趨勢には目を離せません。

 

 

 

 

 

 

 

森島 中小企業 ISO支援オフィス


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